製薬産業を自動車工業や総合化学、食品工業などの他産業と比較した場合、研究開発指向が非常に強いことがわかります。売上高に対する研究開発費の比率は、8%を超えており、全産業の中でも最上位に位置しています。

生活習慣病の薬

また、研究開発の中でも基礎研究に注力しているのも、製薬産業の特徴の一つです。これは新薬の元となる新しい化合物を見つけ出す基礎研究に産業の未来がかかっていることにほかありません。実際、製薬産業の研究開発費に占める基礎研究の比率は23.0%前後となっており、全産業平均が6%前後であることを考えれば非常に高い数値です。

また付加価値の高さも大きな特徴です。少ない資源とエネルギーで、少量かつ高価な医薬品を生産するという点で、製薬産業は高付加価値産業の代表といえるでしょう。これは財務面にも現われており、産業別経常利益率で比較してみると、製薬産業は約17%。自動車が約7%、電子機器工業でも約8%となっており、いかに高利益率なのかがわかります。

逆の見方をすれば、他の産業を圧倒するくらい利益率をもってして、ようやく膨大な研究開発費をペイできるという産業特有の事情もあるのです。

高付加価値、高収益を特徴とする製薬産業ですが、そこに至るには既存薬の効能を上回る、あるいは副作用が少ない新薬の開発に成功するという大前提があります。糖尿病や高血圧をはじめとする生活習慣病、若い世代に増えている乳がんや子宮頸がんなどのがん、高齢者の増加に比例して増えるアルツハイマー病などの社会的ニーズに応える新薬を開発してはじめて、製薬企業は高付加価値、高収益という恩恵に預かることができるのです。

しかし、新薬を開発して患者さんが待つ医療現場で使用されるようになるまでには、候補化合物から医薬品の可能性を秘めたものを選別する「基礎研究」、動物で薬理作用や副作用を調べる「非臨床試験」、同意を得た健康な人や患者さんで検討する「臨床試験」、製造承認に関して厚生労働省の審査を受ける「承認審査」といったステージをクリアする必要があり、最低でも10年以上の年月がかかります。

治験の際には、実施基準(GCP)を順守しているかを医療機関と製薬企業の側から監視するため、担当医師のほかにも、臨床開発モニターや治験コーディネーターの協力が欠かせませんが、それぞれが自前で採用すると人件費が高くつくため、近年はCRO(受託臨床試験機関)やSMO(治験施設支援機関)などの治験専門のアウトソーシング企業が重宝されています。

製造承認を得るまでに消えていく候補物質の数も莫大となっており、新薬として市場に出る確率は、10000分の1ともいわれています。高付加価値、高収益の裏には、大きなリスクがあるといえます。

他の産業と比較して、医薬品の研究開発はもうひとつ大きな特徴があります。それが医薬品が販売されて実際に臨床現場で使用されてから行う市販後調査です。医薬品はなによりも安全性が問われるため、臨床試験は数年をかけて実施しますが、対象は数百人程度です。

承認後は全国の医療機関で数万人単位に処方されますが、そこで初めて発見される副作用や新たな効能もあるのです。医師や薬剤師を訪問してこれらの情報を収集して製薬企業にフィードバックするのが市販後調査の目的であり、大きな役割を担っています。